祭事のマナー
 
−お月見の楽しみ方は?
●月の見える場所にお供えを用意する
   お月見は,陰暦八月十五日(新暦では九月十七日前後)に一年でもっとも美しい月と称えられる「中秋の名月」を観賞するという習慣です。この日の月は,別名「十五夜」とも呼ばれ,全国各地でさまざまなならわしが残っています。
   十五夜には,家の縁側や庭先などの月が見える場所にお供えものを用意してお月見をたのしむ風習がありました。このときに,初ものの里芋を供えることから「芋名月」,「芋神様の祭り」と呼ばれることも。また,平安時代には農耕の神様に感謝を捧げる行事とされていたという説もあり,収穫の祭りの精神を残す行事として,かつてはお月見に稲穂を捧げる地方もあったようです。
●十五夜だけでなく十三夜もお月見を
   十五夜に対して,日本では「十三夜」と呼ばれる,もう一つのお月見があります。これは,旧暦九月十三日にあたり,栗や豆を供えることから「栗名月(栗明月)」とか「豆名月」,「後の月」や「小麦の名月」などとも呼ばれているようです。基本的にはこの夜も十五夜と同じように,月が見える場所にお供えものを用意してお月見をたのしみます。
   中国では十五夜だけにお月見を行いますが,日本では「片月見をしないように」という古い言い伝えも残っているようです。せっかく日本だけに二度あるお月見の行事ですから,できればどちらも家族揃ってゆっくりと名月を鑑賞したいものです。
●健康と幸せを願う月見団子は家族でいただく
   お月見のときのお供えものの代表は,やはり月見団子。これは,三方にのせて庭先などに用意した月見台の上に置きます。ですが,年によってお供えする団子の数は変わってきます。普段なら十二個,うるう年のときは十三個用意するのがならわしです。健康と幸せを願う縁起ものですので,お月見が終わったら下げて,月にあやかって家族で食べるようにしましょう。
   また,このほかには秋の七草。春の七草と違って,こちらは鑑賞用になる花が中心です。お月見というとススキばかりが取り上げられますが,フジバカマやキキョウ,ナデシコにクズ,ハギ,オミナエシなどもあります。お月見が近づくと花屋の店頭などに並ぶので,手に入るものを用意して供えるようにしましょう。
   また,昔なら田畑でとれた初ものの野菜やくだもの。十五夜には里芋,十三夜なら豆や栗を中心に供えました。いまなら,季節のくだものなどを用意すればいいでしょう。いずれもお供えしたあとは,家族で残さず食べるようにしたいものです。

−地方別・お月見の風習
◆北海道・東北・関東地方
 北海道や東北地方では,お月見の夜には里芋や豆を供える地域が多く見られます。かつては,お月見のための供えものはどこの畑からとったとしてもとがめられないと言われていました。このため,子供たちが鈎をつけた竹竿などで供えものの月見団子や里芋などをとってまわる習情もあったようです。こういったならわしは北海道や東北地方にとどまらず,全国的に広い地域で行われていました。また,人にとられればとられるほど収穫があったと言われることもあり,収穫の祭りの性質を色濃く残している地方もあるようです。
   関東地方の群馬県では,ススキなどの秋の七草とともに,「おてまる」と呼ばれる団子を供える風習が残っています。
◆北陸・甲信・東海・近畿地方
   愛知県名古屋市守山区では,旧暦の七月二十二日と二十三日を,二十二夜・二十三夜としています。この夜の月は一年でいちばんご利益があると言われ,お参りを行うこともあるようです。病人が出ると千度参りや「お立ち待ち」を行いますが,この二十二夜や二十三夜に拝むと病気が軽くなるという言い伝えも残っています。
   また,大阪府堺市や河内長野市などの大阪府南部では,お月見に供える里芋に穴をあけ,この穴から月をのぞいて願いごとをするという習慣もあるようです。
◆中国・四国・九州・沖縄地方
   岡山市などでは,十五歳を迎えた女の子が,月明かりの下で針に糸を通してぬか袋を縫うと,裁縫が上達するという言い伝えがあります。
   また,かつては四国地方を中心に広い地域で,うるう年に十三個の月見団子を供えることがしきたりになっていました。現在でも,都心部を離れるとこういった古い慣習が残っている地域が多くあります。
   九州地方では,十五夜に綱引きを行うことがかなり広い範囲で慣習化していました。とくに熊本県の南部や鹿児島県では,とぐろ状に巻いた綱の中心に十五歳になった子供たちが入り,月を拝む行事があります。そのあとで綱引きや相撲なども行うことがあるようです。
   沖縄県の十五夜の料理は,餅に赤豆をつけた「ふちゃぎ餅」が一般的です。ただし,この餅はお月見の供えものにするというよりも,仏壇や火の神に供えるほうが中心。今年の豊作に感謝して,また来年の豊作を祈願する行事と言えるでしょう。